糸魚川 真柏 ( しんぱく ) のあらまし

「真柏」の正式名は、ミヤマビャクシン(深山柏槙)といいます。ロシアからミャンマーや台湾まで広く分布するヒノキ科イブキ(Juniperus chinensis)の仲間で、日本の高い山々に適応した変種です。

糸魚川ユネスコ世界ジオパークでは、中央を通る「糸魚川-静岡構造線」に沿うように石灰岩や火山岩のゴツゴツした山々が連なっています。 明星山 ( みょうじょうさん ) 雨飾山 ( あまかざりやま ) 黒姫山 ( くろひめやま ) 海谷渓谷 ( うみだにけいこく ) などの険しい岩山 の過酷な環境に自生する「糸魚川真柏」は、ほかの地域の真柏とは一味違います。

ちなみに、畑のように植物の生育に適した環境だと早く成長しますが、やわらかく腐りやすい幹になってしまいます。また、枝や葉が伸びすぎて、すぐに盆栽にできないほど大きくなってしまう、というデメリットもあります。

糸魚川真柏の主な自生地

糸魚川真柏ここすごい!

優れた葉性

糸魚川真柏の葉の色は鮮やかで、短く細かく分かれています。

葉や枝が間延びしないので、大型盆栽はもちろん、ミニ盆栽品にもバランスよく仕立てられます。

短くて、細かくまとまる葉は真柏の特徴

白くて硬いジンとシャリ

過酷な環境で数百年かけて育った幹や枝は非常に硬く、ジンやシャリが腐りにくくなります。時代を感じさせる乳白の色あいと濃緑のコントラストは、糸魚川真柏の大きな魅力の一つです。

枯れて白くなった枝は「ジン」、
枯れて白くなった幹の部分は「シャリ」と言います。

糸魚川 真柏 ( しんぱく ) の歴史

  • イブキから真柏へ

    明治 - 1907年
    石鎚山(1982m)

    真柏は、明治時代に西日本最高峰として知られる愛媛県の 石鎚山 ( いしづちさん ) (1982m)で初めて発見されました。

    真柏が発見されるまでは、イブキがよく盆栽に使われましたが、イブキより美しく仕上がる真柏が全国的に主流となりました。 奥山で発見されたため、ミヤマビャクシン(深山柏槇)と名付けられましたが、盆栽愛好家の中では「真柏」という愛称で親しまれてきました。

    発見後、多くの真柏が石鎚山から乱獲されたため、1907(明治40)年に姿を消してしまいました。

  • 糸魚川真柏の発見

    1910年
    黒姫山や明星山に広がる石灰岩地帯

    1910(明治43)年に、愛媛県出身の 鈴木多平 ( すずきたへい ) 氏が北海道から四国に帰る途中、糸魚川沖から黒姫山を望み、「石鎚山に似ている」「真柏があるのでは!」と思いました。船を降りて入山してみたところ、青海川上流の清水倉という集落付近に真柏を発見しました。

    この真柏は、四国の真柏よりも美しく盆栽としての価値が高かったので、他の真柏と区別するため「糸魚川真柏」と名付けられました。

  • 糸魚川真柏のブームと危機

    1910 - 1970頃
    明星山の岩壁を登るクライマー

    その後、多平氏は清水倉に移住し、真柏の山採りを始めます。 1912(大正元)年、近くの明星山でさらに多くの真柏を見つけると小滝地区に移り、山から採集した真柏を全国各地に送り続けました。

    昭和時代に入ると糸魚川真柏の人気は全国的に広がりましたが、第二次世界大戦により一時的に山採りの活動は下火になりました。しかし、戦後の高度経済成長期に盆栽愛好家のステータスシンボルとなった糸魚川真柏の山採りは加速します。

    「寿雲」や「飛龍」などの銘木が次々に流出し、やがて昭和40年代(1970年ごろ)には石鎚山と同じようにほとんど採れなくなりました。

  • 糸魚川真柏のいま

    現在

    昭和時代の乱獲によって、自然の糸魚川真柏は、ほぼ採りつくされてしまいました。現在、市内には糸魚川真柏を守ろうとする盆栽関係者がいるものの、後継者の確保が困難になっています。 また、山間地域の少子高齢化により、明星山や黒姫山など自生地の森林環境を守る人たちも少なくなってきました。糸魚川真柏を未来に伝えるために、今こそ積極的な取組が必要です。

    糸魚川ジオパーク協議会では、2020年3月に地元関係者と協力して「糸魚川真柏活用プロジェクト」をスタートしました。

    300年後も糸魚川真柏を楽しめる環境づくりを目指し、「保護と保全」「教育ツーリズムへの活用」「地域振興」の3つの柱で進めていきます。

真柏はカシワじゃない!

「真柏」の字を見ると、カシワ(柏)の仲間だと思われがちですが、実はヒノキ(桧)の仲間です。「柏」の字を使っているのは、中国語で「ヒノキ」を「柏」と書くためです。

ヒノキの中で最も美しいことから、「真柏」という愛称が付けられました。

真柏

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